TPPに入れば著作権保護期間は70年に

アメリカに来てひと月以上たち、日本のことなんかどうでもよくなってきたんだけれど(実際、運転免許を取ることのほうが今のわたしにとっては大切である)、メールで日本が TPP 交渉参加に前のめりだと聞いたから書いておきましょう。

日本が TPP に参加すれば著作権保護期間は確実に70年かそれ以上に延長されます。今年の六月でしたか、韓国が50年の保護期間を法的に70年に延長しましたね。あれは EU と FTA を結んだ結果です。FTA も TPP も、関税やら不公平な法律規制をできるだけなくそうという国際的な約束です。EU は著作権の保護期間が70年なのに、韓国だけ50年では、韓国の出版業界だけが得してしまうでしょう? だから保護期間を合わせたわけです。日本が TPP に参加すればおなじことが起きます。これは確実。TPP の交渉に参加している国の著作権保護期間を調べてみてください。アメリカを含めほとんどが70年です。これらの国と平等な取引をしようとするなら、日本は韓国のように著作権保護期間を延長しなければなりません。たしか TPP を批判しているニュージーランドの大学教授ケルシーさんも日本での講演でそのことを指摘していました。

アメリカ産業界が TPP の交渉にあたってアメリカ政府に提出した要望書がありますが、それにも他国の著作権の保護期間を70年以上にしろと書いてある。

こうした点から見て交渉参加国から保護期間を延長しろと要求されるのは当然の成り行きです。さらに民主党というのは今までの党首=総理、つまり鳩山と菅が著作権保護期間の延長論者だった。いや、日本にはもともと著作権に対して意識の高い政治家はひとりもいません。著作権を問題にしても選挙で票になりませんからね。逆に言えば有権者も著作権に対する意識が低い。ヨーロッパでは海賊党が評判になっていますが、あれはヨーロッパでは著作権が大きな政治的イシューであることを示している。カナダでも著作権に関しては与党と野党が対立していますし、学生運動も存在しています。アメリカだって政府こそ映画や音楽産業の側に立つけれど、国民のなかにはそうした態度に根強い批判があり、パブリックドメインを保護したり、クリエイティブ・コモンズのような仕組みを創り上げる勢力が存在するのです。日本にはそんなものは皆無です。皆無だから TPP 加入なんてきいても、反対運動すらおこさない。

青空文庫は壊滅まであと一歩です。よくはしらないけれど、たぶん本の数が三分の一くらいに減るんじゃないですか。保護期間70年が実現すれば、アメリカの Project Gutenberg のほうが日本の書籍をたくさん収めることができるようになります。アメリカのパブリック・ドメインの規定は日本のそれよりも広いからです。つまり1923年以前に出版された本は、著者の死亡年月日にかかわらず、著作権が切れたものとみなす、という古い規定が生きている。また、いま行われようとしている裁判の結果によっては、パブリックドメインの領域はさらに広がるかも知れない。アメリカは TPP に参加するとしても、他国に合わせて自分たちの権利を縮小するような真似は絶対しません。他国に対して自分たちよりももっときびしい知財の枠組みを要求する、それがアメリカが TPP に参加する目的なのです。

日本人も日本の政治家も、また、日本のメディアも、ACTA 交渉以来アメリカが何を目論んできたかちっとも知らない。外から見ると日本というのはあきれた国ですね。何も知らない。世界という舞台で意見も言えない。権利も主張できない。自閉症に陥った子供みたいなもので、だからアメリカが監督してやらなければならない。これはわたしの意見というより、アメリカの普通の人々の意見ですよ。

訃報に接し――出国直前最後のエントリー

信じられない。

マイケル・S・ハートが亡くなったなんて。

グレゴリー・ニュービー博士の弔辞を読みながら、何度もそう思った。

冗談じゃないのか?

しかしニュービー博士は冗談を言う人じゃない……

死因は今のところ分かっていません。

ハート氏は1947年生まれ。世界ではじめて電子書籍を作り、そのコレクションを Project Gutenberg として発展させました。今年は最初の電子書籍が作られてからちょうど四十年目ということで、世界中のみんながお祝いをしました。よりによってそんな時になぜ……

わたしがハート氏とメールを交換したのはほんの二ヶ月前。彼らしいざっくばらんな調子の、それでいて相手を思いやる温かいメールでした。

ニュービー博士の弔辞にもありますが、ハート氏はあらゆる人が、とりわけ子供が、「知」に接することができるよう、電子書籍図書館を作ろうとしました。そして「知」を守るため、つまりパブリック・ドメインを守るため、果敢に戦ってきた人です。彼にはいろいろな圧力がかかったけれど、それを断固はねのけ、共有財産、共有の権利を守ろうとした。彼は単なる電子書籍の「発明者」ではありません。公共の利益のために、先頭に立って戦った、尊敬すべきリーダーでもありました。

ハート氏は日本語の作品とその翻訳を、もっと Project Gutenberg に含めたいと常々考えていました。だからわたしが日本語の入力をします、と連絡したときは、とても喜んでいました。

子供を放射能から守るためにしばらく米国に行きますが、落ち着いたらまた仲間に呼びかけて入力を続行しようと思います。それがハート氏のためにわたしができるなによりの供養ではないだろうか。

心からハート氏のご冥福を祈ります。

小説は女のもの

ニールセンが行った、タブレットと読書用端末の所有者についての最新調査によると……(こちらの記事です。)

2010年の第三四半期にはタブレットを持っている人の62%が34才以下。55才以上で持っている人はたったの10%でした。

ところが2011年第二四半期には34才以下で持っている人は46%に減り、55才以上で持っている人が19%に増えました。

読書用端末の所有者について見ると、性差がはっきりとあらわれています。2010年第三四半期には、読書用端末を持つ人のうち、女性が占める割合は46%でしたが、現在は61%が女性です。女性のほうが本を読みますから、技術にさえ慣れればこういう結果が出ることは十分に予想されましたけれど。

日本でも読書用端末を売るなら女性をターゲットにしなければなりません。読書用端末は小説を読むのに適しています。そして小説の読者はいつだって女性が多い。しかし特に女性をターゲットにした製品づくりやマーケティングが行われている様子はありませんね。年代層を考慮に入れたデザインとか、操作性とか、あらかじめ内蔵しておく書籍とか、工夫の余地はいくらでもありそうです。老眼鏡が必要な団塊の世代に読書用端末の読みやすさをアピールできないでいるのは業界の怠慢です。

図書館では電子図書の採用が計画されていますが、変革はこちらのほうから起きていくのかもしれません。

ホテルに泊まってキンドルをもらおう

Hotel.com によると、特定のホテルに三日泊まると、キンドルがただでもらえるのだそうです。たしか去年、ある保険会社は加入してくれた人に無料でキンドルを配布し、新口座を作った人にキンドルを渡すという銀行もありました。今回のホテルの場合は、おそらく型落ち寸前のキンドルを安く入手したのじゃないかな。いずれにしろアメリカにおけるキンドルの人気、そしてキンドルがどんどん広がる理由がわかります。

ひるがえって、日本の企業はこんなふうに自社の端末を販売促進できるでしょうか。

大博奕か?

デジタル時代においては実験が大事、と前の記事で書きましたが、Simon & Schuster (大手出版社の一つです。)がびっくりするようなことをやろうとしています。

S & S は自己出版をしている John Locke という作家と契約を結びました。最近は自己出版する作家と出版社が契約を結ぶことは珍しくなくなってしまいましたが、しかしこのケースはちょっと違う。S & S は John Locke 氏の紙の本を出す権利を得るが、電子書籍の出版の権利は今まで通り作家のもの、つまり Locke 氏は自己出版を続けることができるという内容なのです。

こんな契約はこれが初めてでしょう。普通は紙の本の出版の権利も、電子書籍を出す権利も同時に買うはずです。

Bookseller の記事によると「これは間違いなく S & S にとってはギャンブルだ。Locke 氏の本が売れる大きな要因の一つは価格が0.99ドルと安いこと。S & S は印刷部数と価格について相当作戦を練っているに違いない。アメリカの大量消費市場におけるペーパーバックはたいて8.99ドル。これは Locke 氏のファンにとっては高すぎるかもしれない。」(こちらの記事からの引用です。)

ううむ。ただ、紙の本を出すことにはそれなりの合理性があります。つまり本を今だに紙の形態で読んでいる人は非常に多い。今年行われた調査によると、読書用の端末を持っているのはある程度収入がある人々です。S & S はそのところに目をつけたのかもしれません。

いずれにしろ S & S が今後 Locke 氏の紙の本をどう売り込むか、注目です。
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