貸し出しは26回まで

何年も前に読んだ本なので記憶が漠然としているけれど、SF作家のクリフォード・シマックが Ring Around the Sun という小説を書いていて、そのなかに決して摩滅しないカミソリ、いつまでも使える電球、絶対故障しないクルマなどが出てきます。いつまでも古びない商品、買ったときの状態をいつまでも維持する商品というのは、最高の商品であり、最悪の商品です。最悪というのは、適当な時期に壊れてくれなかったら、会社はもうそれ以上その商品を売れませんからね。もちろん、人は買った商品が壊れなくても、「最新型はこれだ!」などと言われると、ついつい余計な物を買ってしまうことがあるけれど。

電子書籍というのはいつまでも古びない商品に近いといっていいでしょう。電気的な障害一発で消えてなくなるという欠陥はあるけれど、そうでもしないかぎり最初の状態でずっと存在し続ける。これは売る側にとっては非常に困ることなんですよ。適当な時期にぼろぼろになってくれないと。それに本というのはクルマやファッションなどと違って「最新型はこれだ!」式の売り込みができませんから。

しかし電子書籍は図書館や図書館利用者にとっては実にありがたい。どの本も新品同様で、手垢や書き込みなんて皆無。図書館は一回本を購入したらいつまでも貸し出しに使える。

ところがですね……

いわゆる big 6 といわれる大手出版社の一つ HarperCollins は、「当出版社の本は図書館で26回貸したら、新しい本を買わなければならないことにする」というルールを定めてしまいました。(こちらの記事です。)

図書館という公共の領域に、できるだけ私有化=儲けの論理をもちこもうとする出版社のやり方には呆れ果てるしかない。しかもやり方が一方的です。図書館や図書館利用者と議論をすることなく、HarperCollins のみの判断で26回という回数を恣意的に決めてしまった。

貸し出しの回数も問題です。日本の市立図書館の貸出期限はたいてい二週間です。26人の人が貸出期限いっぱいに借りたとしたら、その本は一年しか貸し出しができないことになります。ベストセラーの紙の本だって一年で書架から消えてなくなることはありません。

この記事に対する読者のコメント見ると一様に HarperCollins を非難している。いわく「図書館は本の愛好者を育てるところ。彼らがやっていることは、自分で自分の足を撃ちぬくようなもの。」「図書館の予算が限られていることを大手の出版社は理解していない。恥を知れ。」「HarperCollins の本をボイコットしよう。紙の本で貸し出し回数が26回に制限された本なんてどこの図書館も買いはしない。」

他の大出版社、Macmillan や Simon&Schuster にいたっては、図書館に電子書籍の貸し出しを禁止しています。どうやら大手出版社から見ると、図書館というのは彼らの儲けを奪う「海賊」のように見えるらしい。

Bundesarchiv B 145 Bild-F001703-0003, Bonn, Studentenbibliothek, Lesesaal
Deutsches Bundesarchiv (German Federal Archive) 1954年の大学図書館の様子
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