古典の威力

Project Gutenberg からもっとも多くダウンロードされる作品のトップ10はなんでしょう、などと問われたら、皆さんはどんな作品を思い浮かべるでしょうか。

聖書?…シェークスピア?…「ハックルベリー・フィン」はあるだろうなあ、マーク・トウェインはアメリカの国民的作家だから…じゃ、イギリスの場合は…やっぱジェイン・オースティンだろ…

などなど思案するのは本好きにとっては結構楽しいことです。もしも「知っているぜ。ナンバー・ワンは『カーマ・スートラ』さ」という人がいたら、それは PG を使い倒している人でしょうね。実はそのとおり。「カーマ・スートラ」こそ PG きってのベストセラー。PG の Top 100 EBooks last 7 days によると、近々一週間のベストテンでも「カーマ・スートラ」が一位です。

1 The Kama Sutra of Vatsyayana by Vatsyayana (6117)
2 The Song My Paddle Sings by E. Pauline Johnson (5243)
3 The Adventures of Sherlock Holmes by Sir Arthur Conan Doyle (4884)
4 How to Analyze People on Sight by Elsie Lincoln Benedict and Ralph Paine Benedict (4849)
5 Pride and Prejudice by Jane Austen (3755)
6 The Notebooks of Leonardo Da Vinci — Complete by Leonardo da Vinci (3406)
7 Adventures of Huckleberry Finn by Mark Twain (3341)
8 A Christmas Carol by Charles Dickens (3283)
9 Alice's Adventures in Wonderland by Lewis Carroll (2852)
10 The Art of War by Sunzi (2810)

十位に孫子が入っているのがすごい。わたしとしては日本の本がベストテンに入ってほしいところですが…。

しかしそれはともかく、今はカッコの中のダウンロード数に注目してください。「カーマ・スートラ」が六千を越えている。第二位の作品は実は LibriVox の朗読なのでちょっとここでは置いておきましょう。第三位のシャーロック・ホームズものは五千近い。

シャーロック・ホームズのケースでダウンロード数を単純計算してみます。一週間に約五千ということは一ヶ月で二万ダウンロードですね。一年間だと24万ダウンロードになる。

これはすごい数字ですよ。

たとえばアメリカの中堅作家が新作を出版社に売り込むとします。すると大手の出版社はその作家の前作がどれだけ売れたかを調べるわけです。そして2万5千部から3万部売れていれば出版を引き受けると、だいたいは考えられています。なかには5万部でなければだめだという出版社もあるようですけど。(こちらの記事を参照。)

しかしシャーロック・ホームズものなら5万部くらい、三カ月足らずでクリアする。この途方も無いダウンロード数はぜひともマーケティングに活用しなければなりません。

日本でも電子書籍を販売する会社が次々と立ち上がるようになり、現代作家の作品がたくさんありますよ、などと宣伝していますが、しかし、新会社のみなさん、パブリックドメイン入した本の力も大いに利用していただきたい。

ステファニー・マイヤーなどは今をときめくアメリカのベストセラー作家ですが、しかし一日のダウンロード数を見れば、ジェイン・オースティンに到底かなわないのです。それに、なるほどマイヤーは今は売れていますが、はたして十年後はどうなっているでしょう。それにひきかえジェイン・オースティンは十年後も確実に今と同じくらいのダウンロード数があるはずです。

会社のヴァーチャル書店にお客を呼びこもうとするなら、よく売れる人気の古典作品をちゃんと品ぞろえしておくことです。日本だったらなんでしょうか。漱石の「坊ちゃん」とか太宰治の作品とかでしょうか。注釈や何やらをつけるなら別ですが、基本的にこれらの作品は著作権が切れていますから、無料ないし、安価に提供することになります。しかしアマゾンでやっているように、「この本を買った人はこんな本も買っています」と、巧みに別の本を宣伝するのです。「吾輩は猫である」を売るページの下にはそのパロディ作品をおすすめとして掲載するというように。

読書好きが集まるフォーラムやブログを見てください。「…という作品が面白かったけど、あんな感じの本てほかにない?」という質問がよくあります。読書に馴染み始めた人はそういうふうに趣味の幅を広げていくのです。それを利用し、かつ助ける形で「この本がお好きならこんな本もためしてください」とすすめるのです。

パブリックドメイン入した作品はヴァーチャル書店のトラフィックを必ず増やします。なかには無料の本ばかりをあさる、フーリガンならぬフリーガンと言われる人々がいますが、しかしこのフリーガンはいったん書籍を買うようになると実に熱心な顧客になるので、Kobo などの会社は非常に大切にしています。

また、日本の場合、毎年一月一日はパブリックドメイン・デイで、来年は和辻哲郎とか火野葦平とかの著作権が切れます。それに合わせて彼らの代表作を安価で提供する、あるいは短編をいくつか入力して無料配布するなら、熱心な読書家はかならず正月からヴァーチャル書店を訪ねてくるでしょう。そしてその作品の最後に関連するような本、あるいは自社から出たばかりの本などの宣伝を付加しておけば、電子書籍というのは衝動買いがひどく多くなりますから、それなりに売上につながると思います。(しかし衝動買いさせるにはアマゾンのように便利でしっかりしたシステムを作らなければなりませんが。)

パブリックドメイン入すると無償のテキストがネットに出回るため、商品にならないと考える人があるようですが、しかし定番と言えるような作品にはとてつもない集客力があります。かりにそうした作品から大きな儲けはなくとも、それで惹きつけた客をうまく誘導して他の本を買わせることが出来れば、充分にもとはとれるはずです。
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