enhanced ebooks

これは電子書籍にテキスト以外のメディア、つまり音とか映像を付加したもののことです。そして小説に関するかぎり enhanced version が成功したという例は聞いたことがありません。

たとえば映画では盛り上がる場面では(少なくとも制作者がそう考える場面では)、音楽も大きくなりますね。それと同じ事を小説でもやろうなどと目論見、enhanced ebook を作るとします。Booktrack という会社は実際そんな本を作りました。しかしその本は売れたでしょうか。

そんなうるさい本はいらん、というのが大方の反応でした。正直わたしもそんな本はいらない。本を読むときは活字に集中しますから、余計な音楽や映像を流されると気が散っていやなのです。わたしの場合、雨の音とか木の葉のそよぐ音とか、ある種の自然音は意識の集中を高めますが、それ以外は雑音でしかない。Booktrack の enhanced ebook が出たときブルームズベリの Evan Schnittman が皮肉を言いました。「この本はサウンドトラックだけなら面白い読み物になるだろうに」(Schnittman 氏の発言はこちらの記事からの引用。)

しかし enhanced ebook は参考文献には非常に有力な形式です。文字情報だけではわかりにくいとなれば、画像を入れる。画像でも不十分であれば、動画を入れる、という具合に、情報の精度をあげることができます。だから教科書とか辞典のようなものは enhanced ebook に向いている。あるいは子供向けの本のなかにもこの形式に合うものがあるでしょう。語学用の本では、発音や会話を収めたCDが付属してくるけど、本にタッチするだけで音が聞けたほうが、いちいちCDをCD-ROMに突っ込んだり、MP3に落とすより便利でしょう。また理解を確かめる単元ごとの小テストも電子書籍上でチャチャッとやれるほうがいい。

フリーガン

電子書籍関係の専門用語を集めて小さな辞書を作りたいなあ、と思ったことがあるのですが、生来の怠け者でいまだに手を付けていません。しかし折にふれて一語ずつでも解説しておけば役に立つかもしれないと思い、自分の頭の整理も兼ねて、不定期に「用語解説」なるものをやってみることにしました。計画をたててそれを着実にこなすというやり方が大嫌いな人間なので、急にやめちゃうかもしれないけれど。

第一回は freegan。フリーガンです。フーリガンじゃないですよ。フーリガンはサッカーの試合で大騒ぎする迷惑な人。フリーガンは簡単にいえば無料の電子書籍ばかりを読む人のこと。

読書用の端末をプレゼントで貰ったり、自分で買ったり、あるいは銀行口座を作ったときに手に入れて(以前、口座を作った人にキンドルを配布するという銀行がありました。いまでもやっているのかな。)、でも新刊本は買わない、著作権の切れた古典あるいは現代作家でも無料配布されている本ばかりを読む人がいます。経済観念がとても発達した人ですね。実際、めぼしい古典はほぼすべて Project Gutenberg からダウンロードできますし、古いジャンル小説も大量に読めます。読書家のコミュニティ・サイトやキンドルのフォーラムなどを注意して見ていれば、現代の人気作家が無料で出した本もどんどん手に入ります。一冊読む間に、十冊くらいたまります。だからジャンルや作家を気にせず、何でも読む人は読書生活に関する限り一生フリーガンでやっていけます。

しかし Kobo の調査によると、フリーガンはいったん本を買うようになると、大変熱心な電子書籍の購買者に変わります。だから Kobo は潜在的な顧客としてフリーガンをとても大切にしています。

フリーガンを惹きつけるためにはどうするか。Kobo は人気のある古典作品を必ず彼らの書籍リストに入れるようにしています。現代のどんなベストセラー作家だって、一日のダウンロード数をコナン・ドイルとかジェーン・オースティンと比較すればその何十分の一、何百分の一でしかありません。自分たちのオンライン・ストアに人を呼びたければ、金にならない著作権切れの作品であっても、十全な品揃えをしておく必要があるのです。うちのストアにはフリーガンの方にも満足していただけるような無料の本がたくさんございますよ、と宣伝し、経済観念の発達した連中を常連客にする。そのうち彼らはクーポンを使ってみたくなったり、誰かに本をプレゼントしようと考えたり、バーゲンを見て衝動買いをしたり、シリーズ物の一冊がひどく気に入って残りの本を全冊買い揃えたりするようになるのです。そして一旦買い物の味をしめると、ハードコアなフリーガンだった人々はハードコアな購買者になる。

日本で電子書籍がいつまでたってもくすぶっているのは、フリーガンがいない、あるいはフリーガンが存在できるほど無料のコンテンツがないからです。現状では、高い端末を買って、オンライン・ストアで本を買うよりも、図書館で本を借りたほうがずっといいでしょう。
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